長崎県唯一のフルマラソンということで、7、8年前から注目していたこの大会、念願叶って(執念実って?)ついに参加することができました。マラソンの概念を覆す程の素晴らしい大会で、マラソンを走ったという気がしません。旅ランの一つの最高峰といえるでしょう。フルの参加者がたったの167人というレア度がまたランナー心をくすぐります。
すごいことだらけでしたが、とりわけ30km以降所々に見えるエメラルドグリーンの混じった海、岩に打ち付ける波とそのしぶき、とことん吹き付ける向かい風の中、人のいない道を進んでいく時間は、五島でしか体験できないもので、強く印象に残りました。“いや遣唐使こんな厳しい自然の中よう海を渡ったな”と思うこと間違いなしです。敬意を表して「辞本涯」の碑を見るためにコースアウトまでしました。
ふるまいも聞きしに勝る豪華さで、後半はかんころ餅を9個(2×4+1)もいただいて力も湧きました。終了後がまたすごくて、お刺身、五島うどん、おにぎり、ジビエ、焼きいもと至れり尽くせり。やりすぎではないかというレベルですが、本当にいいのでしょうか?遣唐使も五島から旅立ちたくなくなりますよ?
応援も多く、ゼッケンから名前を調べて呼んで下さるなどウルトラマラソン級の歓迎ぶりです。「大阪からようこそ」と言われる度に頑張ろうと思います。終盤車で先回りして何度も応援してくれたお兄さん方にも笑顔になりました。
コースも走りごたえ十分で、14km辺りの長い坂、34km過ぎの急な坂、実は38kmにも出現する地味な坂など、坂マニアにはたまらないコースです。市長さんも“沢山の坂を用意しております!”と高らかに宣言されていました。走り自体は全く無理せず、3時間19分を少し切るくらいでした(151bpm, 190spm, ストライド1.12m, 上下動比5.5%, 上下動6.4cm, 左右接地時間バランス49.2%:50.8%, 接地時間244ms)。
五島は観光名所も多いですし、普通に出てくる食べ物のレベルが都会ではまず出会えないくらいのもので驚きます。素材が違うということなのでしょうか。全国を回っていますが、特にうまいと感じました。
マラソン以外の観光も充実しており、山本二三美術館、五島椿まつりのちゃんここ、下大津展望所、五島氏庭園・心字ヶ池など、五島でしか出会えない沢山の驚きに出会えました。
五島の皆様、この度は素敵な時間を作り上げていただきありがとうございました!これからも五島でしか実現できない素晴らしい大会で、全国の旅ランナーを驚かせ続けて下さい!
五島の皆様の温かな歓迎は、隠岐の島ウルトラマラソンと近い空気がありました。
島での大会ということで、小豆島の瀬戸内海タートル・フルマラソン全国大会を思い出すことも多かったです。
今大会でラストとなってしまいますが、自然豊かな道を行くことも含め、くすのきカントリーマラソンには通じる所がいくつもあると思います。
海のすぐ側というより海の中を走れる宝浪漫マラソン(30km)も素敵です。こちらも給食が振り切れています。何とか開催できるまでに復興が進んでほしいと願っています。
続きのページにはこれでもかという程のコース、エイド、観光の写真を残していますので、五島が気になって仕方がない方もそうでもない方も楽しめるかと思います。分量は多いので、一部だけ写真をスクロールするくらいがおすすめです。
コメント、スター、↓のバナーなど、何らかの方法で反応をいただけますと、“こんなブログをいくらかでも面白がって下さる奇特な方がいるのか……。”と私が感化されて唐へと旅立ちます。
次回予告は、“関西人のたしなみ、ABC篠山マラソン!”です。
前日
初めての長崎へ(大規模大会だけがマラソンではない)
翌日には徒歩圏でタイムの狙える二万人規模の大阪マラソンが開催されるにもかかわらず、あえて飛行機を乗り継いでまでタイムの出ない二百人規模の大会に参加するべく五島へと向かいます。ロマン溢れる選択をしました。
6時半頃に起き、時間があったので卵、納豆、ヨーグルトに蒸し野菜の奥能登ごまみそマヨチーズあえを用意し、ばっちり栄養を摂ってから出発です。心拍数は43、体重も66.1kgで普通です。
金曜は特に何もせず。朝に四十萬谷さん(金沢の老舗)の花きんじょうを肉野菜炒めに混ぜたら味が決まりに決まって素晴らしかったです。夜は豚バラと白菜の無水鍋にいしるを足し、大分のかぼすポン酢でおいしくいただきました。
長距離移動ということで気になる交通費は、次の通りです。
9:40神戸→11:00長崎(スカイマーク, 9,200円)
11:50長崎→12:25五島福江(ORC, 6,650円)
ちなみに帰りは、
17:45五島福江→18:15長崎(ORC, 6,650円)
19:00長崎→20:15伊丹(12,990円)
交通費的には結構リッチです。しかしここで数千円をケチって貴重な五島での経験を諦める人生では納得して終われません。後述のように大会参加費が5,000円と激安、宿泊費も二日11,000円でしたので、全体としては大都市の大会と左程変わりません。
遠いには遠いのですが、思えば小豆島に行くにも大阪→高松(バス)、高松→土庄(フェリー)というルートだと相当時間がかかりますし、伊丹→新千歳→函館も経験しています。勝負観光(最早レースですらない)にはこれくらいの移動は付き物です。
長崎空港(3時間の遅延も何のその)
ランニング以外の用事も含めて、唯一訪れたことのなかった長崎にやってきました。すぐに乗り換えるのもなあと思っていたところ、OCRが大幅に遅延(当初アナウンス115分、結局3時間)していたため、これ幸いと長崎空港を探検します。
空港からの海の眺めもよく、売店も充実しています。油断していると佐世保バーガーなど際限なく買ってしまいそうです。有田焼の販売もあり、九州に来たという実感が湧きます。
長崎カステラアイス、ハトシロール(チーズ)、クロワサンド(リトル・エンジェルズさん)、大とろ角煮まんじゅう(岩崎本舗さん)と次々においしいものを食べ、貴重な長崎での時間を楽しみます。
結局飛行機は当初予定より3時間遅れとなりましたが、この時間を使って読書に勤しみました。移動中は主に『古代世界の超技術』(ブルーバックス)を読み、ピラミッドとストーンヘンジの科学的な考察に、何千年も前に何故ここまでのことができたのかと毎度ながら感服していました。
疲れてきたので後半はマキャヴェリ『君主論』を数年ぶりに再読し始めました。何故思い立ったかというと、モームの『昔も今も』というマキャヴェリをモデルにした小説がとんでもなく面白かったからです。マキャヴェリ個人に興味の湧く一冊です。
五島観光
まずは受付へ
五島まではプロペラ機で30分程です。とにかく低いので結構怖く感じます。それでもエメラルドグリーンの海が見えて来てからは、もう早く走りたいとうずうずしてきました。隠岐の島に行った時に感じた気持ちに似ています。
さて、予定ではバスにて福江港まで行くはずだったのですが、3時間も遅延しただけあってバスがありません(ですよねー)。タクシーも少なかったので、初対面の方と3名で相乗りしました。皆行き先は同じでしたし、少しですがお話しできて楽しかったです。運賃も結局1人500円で済みました。原資はOCRさんからいただいたお食事代です。OCRさん、ありがとうございます。
受付会場は福江港フェリーターミナルです。やはり瀬戸内海タートル・フルマラソン全国大会で(二度)訪れた小豆島を思い出します。大会参加費が今時信じられないくらいの5,000円というところも似ています。ただ同然と言ってもよいくらいです。参加賞も手延べうどんが手延べそうめんとシンクロします。レアTシャツは勿体なさ過ぎて着られませんね。
夕食とスイーツ
- うま亭さん
16時過ぎでしたが、何とかやって来ることができました(17時までなのでこのタイミングしかありません)。一番上にあった「ランチ」を注文したところ、まずお皿が大きくて驚きます。そして魚フライを食べた時に、何とうまいのかとまたも衝撃が走ります。ハンバーグもエビフライもお味噌汁の出汁も全てが当たり前のようにうまいのですが、“五島はちょっと食べ物の水準が高過ぎるぞ……。”と認識します。
- はたなか本店さん
五島銘菓ちゃんここを買わなくてはとやってきたのですが、ついついちゃんここロールも買ってしまいました。これはクリームも小豆もきなこも絶妙で、大変おいしゅうございました。しまつばきもおまけして下さったり、マラソンの応援もしていただいたりで、来てよかったなと実感しました。
第30回五島つばき祭り
丁度五島つばきマラソンの時期にはこのお祭りが開催されるということで、行くしかありません。金曜日から色々な催し物やステージが楽しめるので、マラソンに限らず普通に観光しても面白そうです。
白鳥神社神楽保存会さんの獅子舞は、動と静といいますか止まっている時と大きくなる時の差と間合いが面白かったです。最後は観客席の方に噛みつくという縁起のよい締めで、さながらプロレスの場外乱闘のような一体感(皆で舞台を作るという意味で)もありました。
五島うんまかもんフェアは幅広い団体がお店を出していて、子供たちも多く微笑ましかったです。明日も沢山食べるため、献立が被らないように選ぶのは頭を使います(こんな時くらいしか頭を使いません)。
こちらでは肉巻きおにぎりをいただきました。朝食用にパンも買って万全です。バーガーは先ほどハンバーグを食べていたので欲しませんでしたが、焼き牡蠣の香りはたまらなく、能登和倉万葉の里マラソンを思い出しました。しまのかがり火点灯は、もう少し暗くなってからだったのかもしれません。
お宿
ゲストハウス五島時光さんです。二泊で11,000円という破格の待遇です。スタッフさんも親切ですし、コインランドリーもあります。全てを兼ね備えています。そしてテレビが無いので静かでよいです(隣の部屋のテレビがうるさいというのはざらですので、たまにないととても嬉しいです)。
ご当地牛乳や朝食を仕入れ、プロテインバーと参加賞のフルグラを食べ、シャワーを浴びてから就寝です。
レース当日
レース前
22:30消灯6時起床です。心拍数は47と最近にしては高めですが、主観的にはしっかり眠れたので全く問題ありません。
朝食は、前日五島うんまかもんフェスで仕入れたwonder trunk & co. travel bakeryさんのいちじくとくるみがメインです。いちじくたっぷりで噛み応えもあり、大変好みでした。卵、チーズ、牛乳はいつも通り。デザートにはたなかさんのちゃんここ(治安孝行)をいただき、上品なおはぎのような味わいに元気が出ます。
福江港からスタート会場(道の駅遣唐使ふるさと館)へは無料シャトルバスが出ていますので何の心配も要りません。7:30の便で8:10前に会場到着です。
参加人数が少ないお陰で、更衣室もスペースがありますし、何もかもがスムーズです。荷物預けと貴重品は別々かと思っていましたが、まとめて預かっていただけて便利でした。
道の駅のある長閑な風景はくすのきカントリーマラソンを思わせるものがありました。さざえめしやパンはレース後では売り切れていたっぽいので、先に買っておくのがよさそうです。
市長さんのご挨拶で34kmの坂がきついらしいという情報を仕入れ、動的ストレッチもこなします。寒く感じた場合は建物の中でギリギリまで待つこともできますし、緩い大会は快適なことが多いです。
【ちょっとまじめな話】
装備
シューズは例によってマジックスピードさんです。2024年に入って早くも4度目の登板です。権藤権藤雨権藤くらいの勢いです。
金沢マラソンTシャツに能登和倉万葉の里マラソンキャップ、いわきサンシャイン手袋、TIGORAマルチポケットM、ザムストソックス、ニューハレ踵二重です。装備は宿で整えてから移動しました。私は寒さに強いのでこれくらいで平気でしたが、スタート前は寒そうにしている方も多かった印象です。
持ち物
エイドの数から少し迷うところでしたが、気温自体は低いので、ジェルフラスコは1つのみにしました。アミノ酸を溶かしただけのコストパフォーマンス重視の一本です(ケチともいう)。
練習
さいたまの後は、流石に別大との連戦のダメージもあるだろうからと強度を落としています。フルも全然頑張らないので、テーパリングらしきことも特になしです。
火曜:オフ
水曜:スロージョグ41分
木曜:スロージョグ46分
金曜:有酸素ジョグ63分 (ハイパースピード2 5:03/km)
土曜:スロージョグ77分(梅を見る会)
日曜:有酸素ジョグ93分(ハイパースピード 5:22/km 休憩多し)
月曜:閾値走5km(Hanzo R 19分57秒くらい。久々だとこんなもん)
火曜:有酸素ジョグ60分(ライトレーサー4 4:59/km)
水曜:有酸素ジョグ61分(エボライド 5:06/km)
木曜:閾値走5km(ソーティRP6 19分17秒くらい)
金曜:有酸素ジョグ70分(ライトレーサー4 4:57/km)スロージョグ(梅を見る会)
土曜:オフ
レース
序盤~前半
- 序盤(早々にウルトラ気分)
右折して左折、応援を受けながら復路で通るエイドを確認して少し行くと早くもトンネルです。いきなりトンネルという出だしからして隠岐の島ウルトラを思わせます。
一つ目のトンネルはともかく、二つ目は上りで、立ち上がりから波に乗れません。タイムを狙う気は一切ないのでよいのですが、ガーミンさんによると5分1秒と5分7秒ですから、今日はこのまま終わるのかもと思いました。珍しく左腿の筋肉に若干の張りがあることから慎重に入ったというのもありますが。
3kmいかないくらいでようやく下りに切り替わったと思ったら、えらく急な下りで、ここを後で帰ってくるのは辛いなとあれこれ先のことも憂います。
ウルトラマラソンで見たことのあるような長閑な景色を進みます。下りっぷりといい川の感じといい、やはりフルマラソンとは思えません。沿道の温かな応援もウルトラ寄りのように感じます。
5.3kmで最初の給水です。気温も低いのであまり飲まなくても問題なさそうです。この辺りでは手袋を外しています。川沿いの景色は小豆島のシーサイドコースと似ているなと思いながら走っていました。辺りからは蛙のような声が聞こえて来ましたが、カラスだったかもしれません。
6km辺りで凝ったデザインの建物があるなと撮影したところ、トイレでした。別にトイレに関心があるわけではありませんが、コース上のトイレ表示はかなり多かったと思います。それにしても白いゴシック様式の「水の浦教会」はいずこに。
この先少し行ってからそこそこの坂があり、下り基調になってからは応援の方が多いことも支えとなって元気を回復できます。魚津ヶ崎公園に向けて左折する時も声援が多かったです。この辺りでは既にトップ付近の選手とすれ違っていて、どんだけ速いのかといつも通り感心します。
7kmのラップは33分台でしたが、特に思うところはありませんでした。このコースでは無理だろうというところです。
- 前半(長い上りもあるけれど)
魚津ヶ崎公園はリレーの第一中継所ということもあり、応援の方も多くてにぎやかです。ここで折り返しがあり、海の眺めに心も踊ります。折角なので石碑は立ち止まって撮影しました。遣唐使船日本最後の寄泊の地として肥前風土記にも記載されているとのことです。
折り返してすぐに第2エイドがあり、こちらではミニトマトがふるまわれました。臆することなく、しっかり止まってゲットします。詰まった果肉は即座に口内で弾け、リコピンはしばらくしてから体内に取り込まれます。
往路組とすれ違いながら走っていくと、昨日タクシーに同乗させていただいた方が見つけて下さり、嬉しかったです。沿道の方にも二回目のお礼を言いながら進みます。
右折して軽い上りをニコニコしながら写真を撮りつつ走っていくと喜んでいただけました。金沢マラソンTシャツを見て“金沢!”と驚いていただけましたが、金沢マラソンのことを知っていただこうという目論見は達したものの、居住地について誤解を与えてしまったことに気づきました。まあ生誕の地なのでよしとします。
観光地の案内表示を見ながら呑気に進んでいたのですが、少し行くと露骨に長い坂が現れます。上り始める前から“あの曲がった先も上りに違いない”と確信するタイプの、ウルトラにありがちなやつです。一旦緩やかになったところでもう一段だらだらと上るので、なかなか終わりません。都合6分くらい上っていたようです。
ようやく上りも終わりそうだと分かった頃に左を見ると楠原牢屋が。そのまま通り過ぎるのも悪いかなと止まって写真に収めておきました。その姿を見た沿道のおじさまが名前を呼んで下さり、止まってみるのも悪くないと思いました。
13.6km辺りにエイドがあり、トマトに目を奪われていたのと予習不足が祟ったのですが、ここが楠原教会でした……。インタビューを受けながら気の利いたことも言えず自分にがっかりしていたのもありますが。
14kmで1時間6分台でした。上手くやれば3時間20分を切れそうです。
中盤
- 中盤①(下りに下って上りのトンネルへ)
この付近に憩坂という地名があるのですが、実際つばきを見ながら下ったりと楽な時間でもありました。しかし15kmを過ぎて少し行って右折するとまたもウルトラマラソンかと思うような長くて急な下りが。いわて銀河や奥熊野いだ天で見たような景色です。
ここで大きく弾むと後で大変なことになるので、ひたすらこれまで通りにリズムの良い走りを心掛けます。それ程速くないので前との差も詰まらず、リレーの方に抜かれたりしますが、私は最後まで笑顔で元気に走るのが目標です。
下りが終わって安心しているのもつかの間、ここからトンネル連発です。往路の記憶によるとかなり上らされるはずなので辛そうです。最初の大川原トンネルは先も見えておりすぐに終わります。
ここから打折第3→第2→第1トンネルと畳みかけてきますが、第3は上り、第2は平坦くらいだったと思います。第1は下りだったので、思ったより手痛い目に遭わずに済みました。
白良ヶ浜トンネルを見て、“まだあるのか”と思うと共に“もうすぐかんころ餅エイドだ”と明るい気持ちになります。トンネルの中では自分の足音が心地よく、“この音と振動が日々のジョグでも前向きな力を与えてくれているな”と確かめていました。
トンネルを出ると軽い上り基調となりますが、幟や応援のお陰で気になりません。“顎引いて!”という檄もいただき、“傍から見たらそう見えるだろうなあ。腰しか意識してないもんな”と考えていました。
21kmはグロス1時間38分23秒程。後半どれだけエイドで止まるかが運命を左右します。遅くても誰一人困りませんが。
- 中盤②(かんころ餅との邂逅)
中間点を過ぎてすぐに待ちに待ったかんころ餅エイドです。まず一ついただいたところ、最初はあまり甘さを感じないのですが、じわりと甘みが広がり、何ておいしいのかと思いました。エイドの常ですが、勧められるままにもう一ついただき、再度コースに戻ります。
遣唐使ふるさと館の前は沢山の方が沿道にいて下さり、おばさまから“軽やかな走り!”というようなお褒めのお言葉もいただきました。とにかく笑顔になれる時間です。
コースはこの先も細かなアップダウンが続きます。22kmでもきっちり上っています。しかしその先も平坦から下りになることも多く、そこまで辛くもありません。この区間は順風で楽でした。当たり前ですがどこかでそのツケが回ってきて逆風になるのですが、その時はその時です。
椿が生い茂った道や民家の間を走ったりと、景色も変わるので飽きません。アップダウンで程よい刺激が心肺に入るのもよいのでしょう。
26.3kmのエイドではコーラが登場しますのでありがたくいただきました。そしてかんころ餅もおかわりして笑顔で出発です。目の前には上り坂が待っていますが。
28kmにもなると段々海が近づいてくるのが分かります。単に期待していただけかもしれませんが。28kmで2時間12分台。普通に行けば3時間20分には収まりそうです。余計なことをせずに普通に行けば(フラグ)。
後半~終盤
- 後半(遣唐使の路を行こう)
独特の石垣を眺めつつ民家の間を行くと29kmのエイドです。またしてもお言葉に甘えてかんころ餅を二つもいただきます。とてもおいしいので、前歯に張り付こうが構いません(気にはなりますが)。この味がまた力になります。
ここから坂を下り、2分も行かないうちに海に出ます。左手に海、右手に墓地という道で、ついにここまで来たのだと思うと共に、この先に広がるであろう未知の世界に胸が躍ります。
30kmの表示を過ぎ、螺旋状の坂を上ると長崎鼻灯台です。この坂の曲がり具合が童心を思い出させるものがありましたが、その先にある灯台は、ここだけポッと浮かび上がっているようで、マラソンの最中ということを忘れました。
コースはここからが特にすごいのです。足元は舗装されているものの、赤いですし、左手の海が近く、所々にエメラルドグリーンも見えます。打ち付ける波も、岩肌もしぶきも、これまでのフルマラソンでは体験したことのないものでした。
そして趣を添えるのが、思い切り吹き付ける北風です。ビュービューいっていますしキャップは飛びそうです。そして極めつけは、ほとんど人がいないので、もう完全に一人の時間に没入できるのです。時間を越えて遣唐使の見た世界を走れることに、ひたすら感激しながらの旅路でした。
“ろくな造船技術も航海術もない時代に海を渡ろうと思う遣唐使は正気とは思えない。どれほど強い使命感を持っていたのだろう”、“風待ちとはいえ、そんなに都合よく順風が続くわけもないだろうし遭難して当然だよな”などと思いつつ、逆風の中、時々上ります。でも海がきれいということに心を奪われていますので、あまり苦しくありません。ペースも意外とよかったようです。
33kmを過ぎたくらいに、また灯台が見えてきます。“きっとあの横を通るに違いない”と思いながら走っていきますが、温かな応援を受けて進むうちに、どうもこのまま坂を下るとあそこには辿り着けなさそうだと察知します。“タイムを犠牲にしてまで寄り道するのか?”というアスリート的な発想を、“折角ここまで来て観光しないなんてありえない。仮に明日もう一度来るのは大変過ぎるだろう”というケチな心意気が軽々と抑え込みます。空海がこの地を訪れたのは1,200年以上前。今更私が数分速く走ろうが誤差の範囲です。
多分ここを曲がれば行けるだろうと左折してコースアウト。誰もいない道(目撃されたら恥ずかしい)を少し進んで(むしろ戻って)柏崎公園へと至り、「辞本涯」の碑の前に立つことができました。空海を乗せた遣唐使船が、唐へ向かう日本最後の寄港地として、この場所に立ち寄ったとのことです。
万葉集で詠われている「遣唐使として旅立つ我が子の無事を祈る母の詠」が刻まれた歌碑も見て、当時の親子の絆というものについて考えたりもしました。今とは全然違っただろうとは思いますが、無事を祈る気持ちと、もう会えないのでせめて苦しい思いをせずにいてほしいという諦めが分け難く結びついているように感じました。
漁船が停泊しているエリアを抜けるとまたも嬉しいエイドがあり、コーラとかんころ餅をいただきます。元気なお子さんが応援してくれましたので、食欲でお応えすることができてよかったです。こちらが喜んで食べると盛り上がります。見せ場を作らなくてはなりません。
喜びもつかの間、いよいよ35km手前の急坂が迫ってきます。下から見ても“うむ、急だ”と分かります。とりあえずいつも通り腰を前に出すことを繰り返すだけです。途中に「上り坂終了まで200m」の表示があり、少し励まされます。その先も長く感じましたが、ともかくこれで一番の山場も越えて一安心です。
- 終盤(美しき高崎海岸と最後のかんころ餅)
しばらくは下りが多くて楽です。高崎鼻も開けています。ここから海に吸い込まれるような下りがあり、何とも爽快でした。そして高崎海岸の美しさ。白い砂浜も、透き通る海も普段の生活ではまず出会えないものです。写真では伝わらないので、何としても実際に訪れて走っていただきたいと思います。何度も左を見ながら、“ここからの姿もきれいだけど、あの坂の上からならもっときれいかも”と考えながら走っていました。
“できればあの櫓に上りたいが、梯子なのでとても無理”などと余計なことを考えながら坂を上っていくと、若者四人組がエールを送ってくれます。笑顔でお礼を言いながら写真を撮ったのですが、彼らはこの後も車で先回りしながら何度も応援して下さりました。最後のエイドでも笑顔で再会できて感謝です。
実は35km以降も地味に上りがあり、緩んだ気持ちのままで臨むと痛い目を見るのですが、順風なのでそこまで辛くありません。そして応援も多くて楽しく走れます。38kmの坂でも、名前を呼んで“あと4km!”と力づけていただけました。下りで小太鼓と仮装で応援して下さった皆様もありがとうございます。
そして最後のエイドではコップを手渡そうとして下さったのですが、落ち着いて立ち止まりお水をいただきました。かんころ餅は二ついくか迷いましたが、さいたまマラソンの教訓(最終盤で食べ過ぎてさしこみ)を踏まえて一つに留めました。
さて、いよいよ40kmです。どうもキロ4に近いところで走れば3時間20分にギリ届きそうです(実際は計算を間違えていました)。余力もありますしここから真面目に走ることにします。いつも通り、閾値走に至らない程度の感覚でリズムを刻みます。マジックスピードの感触も良く、進んでいるのが分かりました。ハーフの速い人との差が開いていったので、あまり速いわけではないだろうなと冷静に思いつつも。
応援に笑顔で応えながら公園沿いの気持ちいい道を進んで右折し、最後に左折して会場へと戻って来ました。本当にすごい大会だったなあと思いながら、名前をアナウンスしていただき、笑顔でフィニッシュしました。素敵な旅路を作っていただき、ありがとうございます。
アフター
レース後
会場
アクエリアスと完走タオルをいただき、お礼を言ってから速やかに荷物を受け取ります。いくら参加人数が少ないと言っても、あまりのんびりしているわけにはいきません。混みそうなところからクリアしていきます。
まずは一階に下りてシャワーです。男子は屋外に簡易シャワーが二つあるのみですので、早く行って正解でした。特に待たずに使用でき、お湯も温かくて大変ありがたかったです。
アミノバイタル、アミノプロテイン、プロテインバー二本と水で回復してから、昼食会場へと向かいます。こちらではお刺身、おにぎり、五島うどんにジビエ焼肉と素晴らしいメニューがふるまわれます。ここまでのフルマラソンにはそうそうお目にかかれません。大喜びで海の幸、山の幸をいただきます。相席の方ともお話しできて楽しい時間でした。
更に無料で珈琲と焼きいものふるまいもあります。係のおばさまが面白い方で、大阪のおばちゃんみたいなノリだったので掛け合いも成立しました。焼きいものホクホクぶりたるや。
出店は売り切れているものもありましたが、チョコブラウニーをおいしくいただきました。他にぜんざいやバーガーもあったので、選手以外も沢山食べられます。
フィニッシュを迎える方をしばらく見届け、お土産を購入して14:30発のバスに乗車しました。あらゆることがスムーズで、そして温かい大会だなとしみじみ思いながら。
福江
- 山本二三美術館
昨日タクシーでご一緒した方にお勧めされた(しかも月曜は休館だと教えていただいた)ので、行ってみました。ラピュタの世界も火垂るの墓もここにあります。雲の描写はこの方ならではと言われており、絵心のない私にも訴えかけるものがありました。追悼文は、自分が誰かにこれだけの思いを持てるだろうかと刺さりました。
- 武家屋敷通り
江戸時代の中級武士が居住していたエリアで、溶岩塊の石垣の上に「こぼれ石」と呼ばれる丸石を乗せ、端はかまぼこ型の石で止めるという、全国に類を見ない石垣が伸びています。地域ごとに特徴のある石垣は、当時の知恵が沢山詰め込まれているのだろうと、行った先々で思います。
- 福江散歩
城跡には高校が、町を歩いていると教会もありますし、市立図書館もとてもお洒落で少し驚きました。
もちろんまだまだ食べる気ですので、松風軒さんでは苺のオムレットとダックワーズを買い求め、至福の一時を過ごしました。
はたなかさんでも、昨日のお礼をお伝えすると共に鬼岳饅頭とお招きつばきねこを購入し、自分へのご褒美としました。
- ミッキーハウスさん
地元で愛されているお店とのことで選びました。定食と悩みましたが、ドリアを欲したのでカレードリア(ヒレカツ)に。出来立てのドリアはグツグツと煮立っていて、一番いい状態で登場します。チーズもカレーもおいしいのですが、ヒレカツが期待以上においしくて驚きます。味も食感も全然違います。やはり五島の食べ物は特別です。ミッキーマウスでもミキハウスでもない絶妙なネーミングが光ります。
- 五島椿まつり最終日
今日もまた神楽を拝見していると、飴をばら撒く舞?があり、私も何故か手渡されました。フィナーレを飾るチャンココは、鐘と男性の声、足捌きの織り成す物悲しい空気に幻惑されるものでした。五島に来たからには絶対見たかったので、貴重な思い出です。
灯籠コンテストは、ライトが消えてからの方がよく見えて楽しめました。個性溢れる力作揃いでよかったです。自分もささやかながら一票を投じてきました。ステージの最後のご挨拶でもあった通り、こうしてお祭りが開催されるようになり沢山の笑顔が見られることは嬉しいです。
宿に戻り、洗濯・乾燥、振り返りと荷物の整理などを終えてから満足して就寝です。何て素敵な一日でしょうか。
翌日
- 観光ジョグ
あまり早起きしても暗いので6:30頃に起きて7時過ぎに出発します。
景色がよさそうだとリサーチしておいた下大津展望所を目指します。展望台というからには上るのですが、そこまでのダメージを受けていないので問題ありませんでした。途中例によってロストするも虹が見えたのでむしろラッキーでした。坂の上の展望台から風に吹かれつつ見渡す福江港は、今ここでしか見られない美しさでした。
ジョグがてらパン活として坪内製パンさんへ。8時から13時という営業時間のため、チャンスは限られています。名物「焼きりんご」は堂々と書いてある通りりんごを一切使っていない度胸がいいですね。島波デニッシュはこれぞ懐かしの味という味わいでした。
観光
- 福江港ターミナルから出発
割と時間があったので、福江周辺を積極的に回りました。まずは福江港ターミナルの展望デッキから海を眺めてぼんやりするところからです。コインロッカーは上を見ていると中型400円の方へ誘導されますが、待合スペースに小型300円があるのでこちらがよいかと。
- 福江散歩再び
深く考えずに、気の向くままに散策しました。自転車を借りて遠くに行くほどの時間がなかったので、歩ける範囲で楽しむこととします。
昼食
いけす割烹 心誠さんにしました。「びっくり弁当」という名前を見て“言うてもそないびっくりせんやろ”と高を括っていたのですが、運ばれてきた瞬間びっくりしましたね。こんなにでかい器があるのかと。蓋を開けると品数の多さにまたびっくりし、一品一品のおいしさにもびっくりするという見事なメニューでした。お刺身も天ぷらも種類が多くて一つ一つじっくり味わいました。50分くらいかけて食事を終え、大満足の昼食となりました。
歴史探訪
- 五島氏庭園・心字が池
城郭内に庭園があるのは珍しいということで見逃せません。まずは庭園を回り、御神木のクスノキ(樹齢800年)や井戸、灯籠などを興味深く拝見します。抜け穴があったりするのも面白いです。池が心の字になっているのかは、字の下手な私には分かりませんでしたが。
館内では、係の方が庭園の成り立ちや建物の見所(武器を隠せる安心のセキュリティや、槍も使えるスマートな天井など)を丁寧に解説して下さり、とても楽しかったです。ただ、最も驚いたのは、案内して下さったおばさまの娘さんが、昨日8km辺りでパンダ着ぐるみで応援して下さった方のどちらか一人だったということです。五島つばきマラソンがこんな所でつながっていたとは、予想もしていませんでした。
建物の中にいると、水の流れと強い風に揺れる枝の音が聞こえてくるのが特によかったです。庭はここまで考えて作るものなのだなと、心地よさの中で思いました。
- 五島観光歴史資料館
特に民俗行事のヘトマトとチャンココが印象的でした。ヘトマトの大わらじが大活躍する場面を直に見たい気もしました。あのもの哀しい念仏踊りのチャンココは、地域によって衣装が違うことを知りました。
潜伏キリシタンの歴史も、人間はどんなにひどいこともするという事実の一部を再認識したことで、アイデンティティが人を殺すのだと少し憂鬱になりました。
福江の大火で死者が出なかったことも記憶に残っています。穴を掘って澱粉を作っていたとか、牛を農耕に、馬を移動に用いていたとか、捕鯨の展示とか、結構覚えていますね。ちなみに、こちらは山本二三美術館との共通券(500円)がお得です。
- 岩川湧水
武家屋敷通りのふるさと館もお休で時間が余ったため、軽く散歩して見てきました。洗濯や野菜を洗うために利用されてきた場所で、同様のものが地域にいくつかあるそうです。
スイーツ
- 雲泉堂さん
金沢の別所分玉堂さん(別所のかすていらでお馴染み)と近い空気を感じたのと、長崎カステラが気になったので入ってみました。食べやすいサイズの羊羮も種類が多くて迷いましたが、カステラとレモンケーキを購入しました。レモンケーキは太陽の光を受けて輝くとより美味しさを増します。
福江港フェリーターミナル再び
フェリーターミナルでは、五島の風を感じながら、透き通る緑も交じる海の前にまた立つことができるのだろうかと、別れを惜しんでいました。大抵の人生は、“こんなはずではなかった。あれもこれも叶えたかったのに”という容赦のない現実を突きつけられてしまうものです。
最後はかんころアイスと鬼岳饅頭で締めました。五島かりんこ(坪内製パンさん)も購入し、楽しい思い出を全身に詰め込んで16:55発のバスで空港へと向かいます。
最後に
五島つばきマラソンは、通常のマラソンの枠に収まりきらないスケールの大きさで、旅ランの一つの完成形だと思います。上り下りや応援の空気がウルトラっぽいというだけではなく、遣唐使の路では時間すら超越するような体験ができます。
マラソンやってる場合じゃないと言いますか、走っていて今自分がいつどこで何をしているのか分からなくなります。少なくとも、今が令和である必然性はないなとすら思います。こんな経験は滅多にありません。
既に24回もの歴史を重ね、独自路線で突き進んでいる魅力溢れる大会ですので、是非とも多くのランナーさんにおすすめしたいところです。観光も食事も含めて、まず間違いなく満足できることを保証します。タイムは出ませんけど、別にいいじゃないですか。
この場をお借りして、五島の皆様に改めてお礼を申し上げます。マラソンを通じてマラソン以外の新たな世界に導いていただき、本当にありがとうございました。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。