私が全国を回り始めた頃は、福井、三重、そして島根にはフルマラソンが存在せず、国宝松江城マラソンが誕生すると知った時は、大喜びで必ず出ようと誓いました。しかしコロナ禍で開催されなかったり予定が合わなかったりで時は過ぎるばかり。ようやく今年念願の初参加を果たすことができました。
コースは松江城、宍道湖、中海を巡る風光明媚なもので、走るだけで観光になります。そこに日本海側の冬らしいころころと表情を変える空模様が加わり、雨風に見舞われたりもするのですが、雲間から差す光も色を変える湖面も、それら全てが神話の中にいるかのようで独特の味わいがありました。
応援も温かく、鼕(どう。太鼓)や吹奏楽、本庄で生まれたといわれる弁慶、男はつらいよの寅さんなどなど、笑顔になる場面が多く、最後まで苦しくなることなく走れ、いつの間にか距離も進んでいました。本当、だんだん(島根ことばでありがとう)です。
水の都松江は、街中の至る所に風情があります。小泉八雲の愛した街の空気が今も失われずにそこにあり、日々の喧騒から離れた時間を感じられます。国宝松江城は天守からの眺めもお城の造りもゆっくり見られますし、小泉八雲記念館や武家屋敷も大変興味深いです。そして和菓子、カツライスに止まらず、おいしいパン屋さんにも沢山出会えます。
宍道湖の夕日、松江しんじ湖温泉に出雲大社も外せませんし、とにかく観光が充実していますので、やりたいことが多過ぎて迷ってしまうこと請け合いです。一泊しかできなかったことが心残りでなりません。
走り自体はとにかく気楽に、ダメージが残らないようにほどほどの力で、逆風の中走る練習くらいの気持ちで終わりました。前半後半共に1時間33分台の3時間7分台でした。後半は充実の第6エイドで2分以上止まっていますが。
(155bpm, 195spm, ストライド1.17m, 上下動比4.8%, 上下動5.9cm, 左右接地時間バランス49.8:50.2, 接地時間233ms)
松江を訪れるのは15年ぶりくらいでしたが、温かな松江の皆様の声援を受け、景色も観光も楽しむことができ、本当によかったです。神話の世界をこの身でも紡ぎながらの国宝松江城マラソン、おすすめです。素晴らしい大会を開催していただきありがとうございました!だんだん!
出雲ウルトラおろち、えびす・だいこく、秘境奥島根やさかなど、人口に対してウルトラがやたらと多い島根県。唯一出場したことのある隠岐の島ウルトラマラソンも素敵な大会です。
2023年は、松江以外の日本三大和菓子処、京都マラソンと金沢マラソンも走らせていただきました。松江だけ住んだことがないのが惜しいところです。
続きのページには大会の様子は勿論、“たった一泊でここまで観光できるのか”というくらいの観光情報も詰まっていますので、写真だけでも是非。コメントやスター、↓のバナーをクリックなど、何らかの形でアクションをいただけると元気が出ます。次回予告は「苺とSL、ドキドキのはが路」です。
追記:ふるさと納税ではしじみのみそ汁とあご野焼きをいただきました。松江の楽しい時間を思い出しながら味わっています。
前日
大阪から松江へ(案外スムーズ)
大阪駅7:10発11:45松江着の高速バス(5,000円。安っ。)で移動です。諸事情で後泊ができなくなったのですが、私くらいの観光野郎となればその程度のことで崩れ落ちたりしません。急遽予定を組み直し、二日間で可能な限り詰め込みました。長井マラソンの経験が自信になります。
途中二度休憩があり、一つ目は何もないPAだったものの、二つ目はあの蒜山高原SAでしたので何も食べないわけにはいきません。クリームパンもソフトクリームも見送り難く悩みましたが、チーズケーキを選びました。そりゃ蒜山ジャージー牛乳使ってりゃうまいにきまっていますよ。
移動中はユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』を読み終え、何ともいえない不安を感じ続けていました。サピエンスはこのままでは。続いて金沢検定でもお馴染みの吉田健一『金沢』を読み始めましたが、読点の少ない文章の癖もさることながら基本お酒を飲まない生活だとあまり響かず、このまま読み進めるかは迷いどころです。
渋滞もなく、松江駅には予定より早く11:25頃には着きました。運転手さんに感謝です。
松江観光
受付と国宝松江城
到着後まずはチェックイン前に荷物をお預けして、オートサイクルきまちさんで自転車をお借りします(800円/日)。18時まで借りられ、変速機もついているのでお値打ちだと思います。自転車はほとんど一番軽いギアでシャカシャカ回しています。重いと疲れますよね。
後述のパン活も間に挟みながら受付と観光名所巡りへと旅立ちます。受付会場のくにびきメッセは立派な建物で、ナンバーカード、パンフレット、参加賞の長袖Tシャツを受け取ります。受付の方の応援はいつも嬉しいものです。
早いうちに絶対に外せない松江城に赴きます。大会チラシに入っていた20%オフクーポンではなく、松江城・小泉八雲記念館・武家屋敷の共通入場券(1100円)を購入しました。他でも割引が利きますので。
15年くらい前に一度松江を訪れた際には時間が無くて中まで入れなかったため、今回は楽しみにしていました。1611年に築城された天守は全国に現存する12天守の一つとのことで、直近では秋田100kmの後に寄った弘前城(外から見たのみですが)以来です。
城内の撮影は自由なのですが、撮ってもあまり魅力が伝わらない気がしたので、いつも以上に直に見ることに重きを置きました。二階分の通し柱を使って荷重を分散しているところが一番印象に残りました。階段はかなり急ですが、松本城の方がきつかったと思います。松本城は混雑度合いもすごいのですが、松江城は(タイミング的に団体さんと被らなかったこともあり)比較的落ち着いてじっくりと観察できます。
天守まで登ると360°が見渡せ、光を浴びた宍道湖の姿を見ていたくて、階段をなかなか下りる気になれませんでした。ここに来られてよかったです。
鉄砲櫓の紅葉、興雲閣の佇まいもきれいです(時間がなくて中には入れず)。松江神社では明日無事に走れますようにと願いを込めます。
石垣を眺めつつ松江城の敷地を歩きます。堀川の遊覧船がまた風情があります。そういえば高校時代の友人が島根に住んでいた頃、「至る所に風情がある」と言っていましたが、正にその通りだなと思いました。
小泉八雲記念館は、愛用のカバンやキセル、拡大鏡や望遠鏡、幼少からの軌跡の解説や、特注の机(高さが特徴的)や座布団のある部屋の再現、三男小泉清の絵の展示もあり、密度の濃い空間でした。小泉八雲の生涯については何年か前に本を買って読んでいたので、松江での生活を愛したことやその後の熊本では不満だったことを思い出したりもしました。館内撮影禁止のため、落ち着いて内容を見て回れます。
武家屋敷がある塩見縄手には、かつては武士の屋敷が並んでいたとのことです。角館でも武家屋敷通りがありましたので、記憶もまた重なります。“成程玄関から公私を厳格に分けるのか”、“長屋門も武家屋敷らしいものだな”と思い出したりできます。
釘隠しをチェックしたり、台所の天井は通気をよくしている様子を見たりもしました。庭の紅葉は鮮やかな色で、丁度よい時期に来られてよかったです。
鼕(どう)という太鼓の展示庫もあり、見るだけでも迫力がありました。レース序盤でも応援があるとのことで、予習にもなりました。
パン活
自転車さえあればこっちのものです。先に書いておくと、松江のパン屋さんはかなりレベルが高く、どこもおすすめできます。京都、金沢もそうですが、和菓子文化が根付いている街のパン屋さんは総じて名店揃いです。
Pilviさんは、土曜18時まで+日曜休みなので、ここで行くしかありません。今回最初にお邪魔したのですが、早速衝撃のおいしさでした。ラムレーズンサンドは甘さと香ばしさが素晴らしく、おさつどきっは塩も絶妙に利いて甘みが引き立ちます。次々とお客さんが訪れるのも納得です。
PANTOGRAPHさんもお洒落なお店においしそうなパンが沢山並んでおり迷うこと間違いなしです。トマトキーマカレーはトマトの味がしっかりしていて、時間をかけて味わいました。パン・オ・ショコラはサクサクでバターの味と香りも光っていました。チョコブレッドは翌朝用と思いつつ半分食べてしまう魅惑の味です。
パンェブールさんはヨーグルトパンの元祖ということです。西尾の抹茶を使ったヨーグルトパンは、来月にしおマラソンに参加する身としては外せません。抹茶の風味とヨーグルトの酸味がマッチし、クリームもたっぷり入っています。バニラ風味のヨーグルトパンもよかったです。
パンびよりさんもかわいいパンが並んでいて次々買ってしまいそうです。黒豆きなこは求肥入りですからおいしいに決まっています。リンゴベリーチーズはリンゴの甘みとベリーの味が期待通りで士気が上がります。
なお、注目のタロさんは受付からも近くて期待したのですが、残念ながらお休み中でした。
宍道湖の夕日
松江まで来たからには宍道湖サンセットクルージングも乗ってみるしかありません。松江駅から近い第二乗船場から乗れるよう、事前に予約もしておきます。この季節は16:30発です。件の共通入場券で1割引きになりますので、1,620円でした。乗車後に船内でお支払いです。
最初の方は客室内で暖を取りつつ、宍道湖へ至ってからはデッキに出て、直に風と空と、そして夕日を感じることにしました。当然、かなり寒いであろうと考えてしっかり厚着してきました。頭の上や、辺り一帯をぐるりと見まわすためには、やはり外に出なくてはなりません。
雲の合間から柔らかく注ぐ夕日は、もうそれだけで満ち足りました。雲も出ていたのでパンフレットに載っているような光景とはいきませんでしたが、自分の行く末をぼんやりと考えながら、流れていく雲と進んでいく水面を見ていた時間は特別なものでした。
松江大橋や嫁ヶ島の伝承(悲劇とやはり悲劇)、ヤマタノオロチ伝説(酒を飲ませて心神喪失状態に追い込んでから手を下す)などの放送もあって記憶に残ります。
カツライスとご当地牛乳・和菓子
夕食はカツライスを求めて西洋軒さんへ。松江の元祖ということで訪れない手はありません。17:31に訪れたところ、ディナータイム開店前から並んでおられたであろうお客さんにより既に席は埋まっており、予約もしていなかった(できたと知らなかった……。)ので大人しく一番上に名前を認めて待ちます。
20分強程で難なく順番が回ってきてカツライスを注文します。カツライス自体は大阪に起源があるそうです。そして加古川のかつめしを思い出すところですが、かつめしは“お箸で気軽に食べられる洋食”というコンセプトで、フォークで食べるカツライスとは異なるようです。ちなみに加古川マラソンの記事もありますのでよろしければ是非。
一口目のインパクトはとても鮮烈で、“あぁ、この衣のサクサク感と庶民的でありながらも主張しすぎないデミソースの相性たるや”という喜びが駆け巡ります。勢いよくカツとソースを食べてしまい終盤はただのライスになったことはここだけの話です。
一畑百貨店さんはもうすぐ閉店ということで、北海道マラソン(札幌エスタ)のことを思い出したりもしました。せめて最後にとこちらでおみやげのしじみ煎餅と木次牛乳、地元銘菓の若草を購入しました。
今日のお宿はグリーンリッチホテル松江駅前 人工温泉・二股湯の華さん。内装もきれいでベッドも広く、大浴場には水風呂もあって言うことなしです。フロントの方も明るくてご親切です。二泊できないことが悔やまれますが致し方ありません。
レース当日
レース前:全てにおいてストレスフリー
22:50消灯6:10過ぎ起床でした。なかなか動揺するような夢を見た気もしますが、夜中トイレに起きることもなくこれだけ眠れれば十分です。まずは大浴場で体重測定。66.0kgとあれだけ食べた割にはあまり増えていません。ついでにシャワーと短めの入浴で身体を目覚めさせます。
朝食は6:50頃に食べ終えました。追加で腹持ちのよいプロテインバーを一本食べるのも恒例です。持参するドリンクを調合し、装備を整えます。そうこうしているうちに運よく腸も目覚めてくれて安全な状態で出発できました。
雨予報に恐れをなしていたのですが、ありがたいことに雨は止んでいます。傘も持っておらず、会場までにナイキフリーが濡れてしまうとその先の観光も辛いため、その懸念が無くなったことは大きいです。
宿から会場まではくにびき大橋経由で20分もかからないので、着替えさえ済ませておけば7:30過ぎの出発で十分です。会場ではシューズを履き替えるのみです。荷物預かりもスムーズですし、整列も緩やかなので、焦る場面もなく落ち着いて準備ができました。動的ストレッチもいつもより余裕を持ってできました。
もしや寒いかもとワセリンは気持ち厚めに塗っておいたのですが、雨もほぼ止んでの8℃くらいでしたので、それほど寒くも感じませんでした。ただし寒さ耐性は個人差が大きいので、苦手な人はゴミ袋ポンチョがあるとよいでしょう。スタート前に回収して下さるのでご安心を。
装備
観光レースにあるまじきことですが、何とヴェイパーさん白(28.0cm)にご登場願いました。これまでに金沢(2021, 2022)、京都(2023)を走ってきていますので、ここで日本三大和菓子処を走破してもらおうという発想です。大分痛んできたもののまだ走れそうでもあり、かといって出し惜しみしていると出番が回ってこないという現状を考えて、今回の起用となりました。
装備は長井や下関海響と同様、アンダーアーマー水色、TIGORAマルチポケット、ザムストハイソックス、ニューハレかかと二重です。あろうことか雨予報を確認せずキャップを忘れる失態を犯しましたが、諦めます(松江で少し探したものの見つからずでした)。普段なら移動中に被るキャップがありますが、今回は寒さを心配してニットキャップのみですから万事休す。
持ち物はいつも通り、ジェルフラスコ二つにそれぞれアミノ酸とマグオンを一袋ずつ入れ、経口補水液で薄めたもののみです。終了直後の回復のためのアミノプロテインとアミノ酸もいつもと同じです。
レース
序盤~前半
案外前に来てしまったため、スタートロスはわずか13秒という恵まれた船出となりました。まずは松江城の方へ向かって走るのですが、道幅が広くてかなり快適でした。500mくらいから松江城の雄姿がちらちらと見えてきますので、建物の合間を狙って撮影していきます。姫路城マラソンとは違って序盤から見えるのはお得感があります。
左折して宍道湖大橋の方へと進みます。宍道湖を見られるのは実はここだけですので、逃すわけにはいきません。人の流れから外れて右の方へと進路を取りつつ、バシバシ撮っていきます。”昨日の夕日はよかったなあ。嫁ヶ島も見えるなあ。お、島根県立美術館だ”と楽しめるので、前日観光を充実させることはいい選択でした(なお、タイムは気にしないものとします)。
左折すると遠くから鼕の音が響いてきます。2.6kmにあると予習済みでしたのでしっかりと理解した上で見届けます。松江駅の前を通り一畑百貨店の雄姿を見納め、左折してくにびき大橋を渡ります。国を引いてきているのですからスケールが違い過ぎます。
この辺りまでしか土地勘はなく、スタート地点を過ぎてしまえば未知の世界、どんな景色が待っているのかワクワクします。最初の給水でコップの大きさや水分量、ゴミ箱の位置を大体掴み、快適に走れそうだと推測できました。
時折雨も降る中でありながら、市街地以外でも応援して下さる方が多く、とても心に沁みました。少年野球チームも、サンタ軍団もいました。
7kmで手元31分30秒を超えていたと思います。そこまで遅い気はしていなかったのですが、まあそんな日もあるよなとタイムは諦めます。命の次に大事な観光を犠牲にしてまでタイムを狙う意欲はありません。ちなみに5kmのラップがグロス23分05秒だったそうです。のんびりしたもんです。
- 前半:中海へ
二つ目の給水も難なくこなし、10km辺りの坂があるらしいという情報を信じて走っていきます。が、特に上ったという実感もないまま下りに突入し、そのまま平地へと移行しました。なんだかお得な気分です。その先に寅さんと笛の応援があったエリアでは少し上っていたと思いますが、すぐに下りに突入したはずです。
右手にはいよいよ中海が見えてきます。曇天が神話の世界を演出します。何という雰囲気でしょう。と思っていた先から雨が降り出し、日本海らしい空模様の移り変わりを見せつけます。私くらいの場数になると、“まあすぐに止むだろう”とものともしませんが、スマホの操作が難しくなるのは困ったものです。
途中二か所トンネルがあり、別に長いものではないのですが、かなり暗くて足元は怖かったです。みえ松阪のようなプロジェクトマッピングまでは望まないとしても、もう少し明るい方がビビらなくて済むのは確かです。
14km手前で左折し、距離調整の折り返し地点を目指します。こういう行って帰ってくるシチュエーションが苦手な方も多いと思いますが、ここはそれ程長くないので大丈夫だと思います。景色が変わり気分転換にもなりますし。14kmで1時間2分40秒くらいだったと思います。
中盤
- 中盤①:雨風があってこその体験
折り返して軽く上りつつ15kmのマットを踏み、大根島への橋を渡ります。ここまでは確かほぼ順風だったと思いますが、橋の上では強い横風が吹いていて山陰の冬のもてなしを全身で受けます。
更に雨もどんどん強くなってきて、本来であれば中海の絶景を楽しめるであろう湖岸の道でも遠くが見えません。それ以前にキャップがないので眼鏡に水滴が流れ放題で近くも見えません。寒さが苦手な方は身体も冷えて辛かったかもしれません。
しかし冬の日本海側の空はころころ変わります。それは八百万の神様があれこれ面白いことをしてくれるようなものですから、この状況を楽しむのが一番です。“今走っている自分自身も神話の一部に取り込まれている”と思うと面白いじゃありませんか。
2kmくらい雨を受けているうちにまた雲の切れ間から薄い青空の姿が覗き、湖面も明るさを取り戻します。金沢の暮らしもそうですが、暗い空があるからこそ、光が注いだ時の美しさと喜びが格別なのです。
20km地点周辺になるとまた応援の方が多くなり、笑顔でお応えしながら走れます。優しい笑顔のおばさま方が多かったと思います。
そしてこの辺りから遠くの方に所謂ベタ踏み坂(江島大橋)の姿が見えてきます。最初は、“あんな角度の坂があるはずがない。建築物の屋根なのだろう”くらいの認識でしたが、近づいていくにつれて否定しようのない現実が迫ってきます。“こんなんありか”と。
21kmで大体手元1時間33分くらいだったはずです。中間点はグロス1時間33分58秒でした。“落ちることはないので、ちゃんと走れば3時間5分は切れそう。しかしエイドで止まるので3時間5分は無理だろう”という計算が立ちます。
- 中盤②:ベタ踏み坂(見るだけ)と八百万エイド
江島へ向かう途中でも湖岸の美しさが心を癒します。ここは明るい時間に走ることができて幸運でした。
江島に入って少し油断していたのですが、標識に「境港」の文字が見えたため、“ここに違いない”と右手を注意し、ベタ踏み坂をこの目で確認することができました。離れた位置から見たせいもあるのでしょうが、正に車が空へと昇っていくような光景で、あそこを上らされずに済んでよかったと誰しも思うことでしょう。島根と鳥取の垣根の(物理的な)高さに惚れ惚れします。
中海に入ってから常に逆風が吹いていた気すらしますが、“今日は逆風の練習ができる大チャンス”と謎のモチベーションが発動していたため、誰かを盾にすることもなく積極的に前に出て風を受け、そのまま離していく展開を繰り返します。みえ松阪2022程の風でもなく、神戸2022の後半粘れたくらいの風だと思いますので、特に怯みません。
今日はかなりピッチが上手く出ている感覚があり、逆風でもピッチが出せれば割と進むと確認できました。5kmのラップで言うと、15kmから先は21分49秒、22分8秒と来ていますので、全体の調子からすれば十分走れていたと思います。でもやはり橋の上はトレッドミルで傾斜をつけたのかと思うくらい進みにくかったのですが。
そうこうしているうちに今大会最大の見せ場、26km先の第6エイドが近づいてきました。あごの焼き、羊羹といった島根のスーパースター達が集結するのです。“もっと分散すればよいのに”などと思ってはいけません。八百万の神々が集合する島根スピリットに感謝です。単独走に近い状況も作れていたので、満を持してピットインします。
まずはリンゴからいただきます。一つずつ楊枝を挿していただいており、食べやすいです。しかしでかいのでちゃんと噛まなくては嚥下できません。続いて西浜いものパンをゲットしますが、これがまたでかかったため、走りながら食べることとします。
更にあごの焼きがふるまわれ、こちらもよく噛んで味わい、津田かぶも逃すわけにはいきません。おいしいトマトも三つも入っていて、食べるのにはどうしても時間がかかります。更に彩雲堂さんの羊羹まで鎮座していますので、絶対に見逃せません。厚かましくも抹茶と柚子をいただき、贅沢なお味に満面の笑みになります。
ここでは思い切り立ち止まり、勧められる給食に“ちょっと待って、まずはこっちから”と返したり、ひたすら写真を撮ったりしていましたので、“観光を楽しんでいる”、“速いのにすごい”などとお褒めの言葉をいただき、盛り上げることもできました。心残りは、ミカンまるごとは扱い切れないと判断してスルーしたことと、あると思っていたしじみ汁を発見できなかったことですが、使命は果たせたと思います。ちなみにガーミンさん調べではこの1kmに6分40秒を要したとのことです。ピッチも145spmと低く、全体平均を1強押し下げています。
エイドの先には吹奏楽の演奏が待っていますので、こちらも楽しみにしていました。ここから加速していきたいところですが、まずはこのパンを食べることが先決です。多くの方のイメージに反してパンは意外と走りながらでも食べやすいのです。お芋の味も生地の香りもよかったです。
パンも食べ終えてやることもなくなったので、後は普通に走って帰るのみです。左手にはまだ美しい中海が望めますので、今のうちに見ておきます。自分はこういう体験が好きなのだと脚先から心臓に伝わってくる時間でした。
28kmで“残りの距離をサブスリーペースで走ったとて3時間7分か8分台くらいかな”と思ったくらいで、具体的な数字は思い出せません。多分その辺のタイムです。
後半~終盤
- 後半:弁慶に力を授かろう
前日予習したくせに失念していたのですが、30kmエイド付近には弁慶が出現します。こまつマラソン勧進帳に参加して安宅関も巡った者としては見逃せません。気づいた時にはスマホが間に合わなかったので、“折角だから”と止まって引き返して撮影しました。しかし数十m程行った先にはまたも別の弁慶が。“弁慶二人おるやないか”と笑いました。
この先軽い上りではエレアコでの『負けないで』演奏が新鮮でよかったです。道の駅本庄は弁慶を前面に出しており、“ここが正に弁慶生誕の地なのか”と思いました。この辺りも応援が多くて、走っていて楽しかったです。もうノリノリですので、エイドでは「だんだん!」と言って給水する勢いです。イントネーションはおそらく不正確ですが。
その先も下りになり、徐々に調子も上がってきた感覚がありました。“まだ33kmくらいかなあ”と思っているうちに35kmに到着して、なんだかラッキーです。
35kmでグロス2時間37分50秒。30kmからの5kmは21分57秒で、弁慶Uターンを加味すれば十分なスピードです。
- 終盤:少し上るも決まるスパート
高低図では35kmから先にぐっと上る所があり、公式情報でもひたすら注意喚起があります。信号を過ぎるといよいよ上り始めます。700m~800mくらいを上ると聞いていたので覚悟しつつ進みますが、多分距離はそんなになかったと思います。しかし傾斜は金沢マラソン前半の長坂よりは急で、流石に心拍数も上がりました。坂の上の方には、「何しに来た」「かならず終わります」といったメッセージもあり、鼓舞されます。ここさえ過ぎればしばらくは快適な下りが続き、勝ったようなもんです。
また建物も増えて来て写真を撮りたいなときょろきょろしていると、何と前半で見送って下さった寅さんがおられて笑顔でご挨拶できました。この辺りでは周囲との余力の差が歴然でしたので、190台後半のピッチで快調に飛ばしていきます。ヴェイパーさんの音もボッボッといい具合です。
39km辺りにも地味な上りがあって少し険しい表情になるのですが、40kmの手前では下りになっていますのでもう後はつぶれることはありません。おきなわマラソンの最終盤と似ているなと思いました。この5kmは20分58秒と、上りがあった割にはちゃんと走れました。脚も明らかに残っていますし、下り基調のコースで9分は切っておこうと決めます。今日の余力なら容易いはずです。
俄然やる気になったので(今更?)、ここからはスピードを上げます。ヴェイパーさんを信じて、いつもよりほんの少しだけ強く地面からの反発を受けます。脚は持つに決まっているので、後は心肺がどれくらい応えてくれるかだけです。腕は特に強く振ることもなく、笑顔で応援に応えながら進むだけの余裕もありました。エディオンが見えてもうゴールも近いと分かってからも、残り距離で抜けるだけ抜きたいと願い、スピードを緩めることなく攻めました。
最後の最後に左折して、スピードの割に余力があったため、こんな機会も滅多にあるまいとフィニッシュゲートを撮影して気持ちよく駆け抜けました。アナウンスの方が私の名前を間違えたのも笑い話です。40km以降は8分35秒で、おそらく過去最速だと思います。余力を残すといいことがありますね。
アフター
会場:出店も多く大盛況
“ほんと楽しかったです!”と喜びながらドリンクとおにぎり、完走タオルに完走証を受け取ります(なお、ラップタイムや順位も翌日には出ており、やけにガチな運営だと判明しました)。アミノプロテインとアミノバイタル粉を摂取後、そのまま荷物を受け取ろうかと思ったのですが、“しじみ汁は数量限定、11:30の部の次は12:30の部だったはず”と思い出したので、直行することにしました。
“この大会ずっと出たかったんですよ”などと談笑しつつ笑顔でよそっていただき、テントで椅子に腰を下ろしてゆっくりと宍道湖のしじみを味わいます。滋味に富んだよき食べ物、これぞ日本の心です。オルチニンの力で回復も促進されます。塩むすびと一緒に食べるとよりおいしく感じました。
荷物も即座に渡していただきました(手際のよさに感心します)ので、プロテインバーを食べてスピーディーに着替えます。ヴェイパーさんは見た目の損傷ぶりの割には最後まで力強く走れ、黒爪なども一切なしでした。これまで28.0cmだと中で動く感じがあったのですが、今日は全くもって無事でした。27.5cmの方が合っているとは思いますが。
荷物もまとめてイベント会場へと繰り出します。出店も多くて活気があります。どれも気になるので悩みつつ、M.M.Fさんのサバホットサンド、JAしまねさんのおでん、カフェエールさんのカツサンドをいただきました。魚、卵、肉を食べられたのは素晴らしいことです。他にもカレーや唐揚げも気になりましたが、この先の観光でも食べるために我慢しました。
ステージでは表彰式や井上咲楽さんのトークなどもあり(サブ3.5達成とのことでおめでとうございます。私も後輩をその気にさせたい……。)、ゆるキャラのあっぱれくんとしじみ姫もお越しになっていたりと盛り上がっていました。
もっとゆっくりしたかったのですが、観光の予定が詰まっているため、どうしても去らねばなりません。お土産を追加して、泣く泣く会場を後にします。
松江しんじ湖温泉:一目だけでもそのお湯を
ここまで来たからには一瞬でもいいから松江しんじ湖温泉のお湯に浸からなくては死んでも死に切れません。会場からスタスタ歩いてちどり湯さんへ。今時まさかの400円、ボディーソープは勿論持参しています。館内はとてもきれいで、程よい温度のお湯でしっかり温まり、筋肉をほぐせました。宍道湖こそ見えませんが、十二分にいい時間を過ごせる場所です。
出雲大社:神々が集う場所
13:36発の一畑電車で出雲大社前まで乗り換えなしです。紙の切符にハサミを入れていただくのがいいですね。車窓からは宍道湖の優しい姿と、長閑な田畑が見えて和みます。途中切り替えしがあり、宍道湖が見える向きが変わったりと楽しい電車の旅でした。
出雲大社前駅の前には参道が伸びています。まずは大鳥居を間近で見なくてはと左に進路を取り、その大きさに圧倒されます。真下の橋を工事していたため、くぐることはできませんでしたが。
大鳥居の側にはブーランジェリーミケさんがあり、是非来たいと思っていました。出雲チーズとオリーブのパン、オグラワッサンは大当たりのおいしさでした。
出雲大社の鳥居の前に立った時は、まず右手の山々に射す光と、そこに紡がれた時間の深さを思いました。
鳥居をくぐり本殿へと進む道を通ったのは二度目なのですが、当時何を思っていたのか全く思い出せません。ただ長い坂を下ったことと、巨大な注連縄に驚嘆したことを除いては。今日は全く新たな気持ちで、松林の道を歩みました。
朝からの雨も止み、時折陽の光が注ぐ出雲大社を前にして、ほとんどの時間はぼんやりしていました。何かを考えるのも相応しくないと感じたからなのか、単に何も出て来なかっただけなのか、あるいはその両方なのかは分かりません。今日までに沢山の喜びに恵まれたことの感謝と、これからの幸せを漠然と願う時間でした。もう人生はここまで来てしまいましたので。
出雲大社にはお年を召されたご家族を何とか連れて来られたという様子の方もおられました。“一生のうちに一度は”と願い続けた方も、素朴に“一緒にお願いしたからこれからも幸せになれるよね”と信じ合う方もおられたことでしょう。人は誰かといてこそだと感じました。
おみくじはとてもよい運勢でした。信じることを忘れずにいなくてはと思います。何度も振り返りながら、外の世界へと歩いて戻ります。
お参りの後は早速坂根屋さんで出雲ぜんざいを楽しみます。お餅も柔らかくお上品な仕上がり、身体も温まります。しかし当たり前ですがぜんざいってめちゃくちゃ甘いですね。
日も低くなりお店も閉まり始めたので、予定より少し早く出雲大社前を発ち出雲市駅へと移動します。出雲市駅前の一福さんでは出雲蕎麦(釜揚げ)をいただきました。麺は静かに語りかけるような味わいで、あっさりしていて好みです。割と甘めのつゆも、薬味と合わせておいしさ倍増です。
最後まで島根観光に打ち込まなくてはならないので、料理に使うとおいしいらしいしじみ醤油を買い、島根のソウルフードの一つバラパンも買って締めくくりました。
バラパンは出雲大社の縁結びバージョンにしました。必死さを漂わせることでネタになるかなと。クリームの甘さと砂糖のザクザク感は懐かしい味ですが、生地は子供の頃によく食べた菓子パンとは格段の差があります。しかし実は70年以上味も形も当時のままとのことで、出雲では昔からおいしいパンが食べられたのかと驚くところです。ていうか、デザインがお洒落で見た目に楽しいですよね。
日中の伯備線の落石によるやくもの運休や遅れにハラハラしました(高速バスに乗るべきかの選択を迫られました)が、最終便は数分遅れで済んでくれて助かりました。迅速なご対応に感謝です。帰宅は23時を越えていますが、手早く片付けをして翌日に備えます。沢山走れるようになるといいことがあります。
出雲市→岡山:やくも30号(岡山行)18:25-21:36
岡山→新大阪:のぞみ272号(N700系)(名古屋行)21:44-22:28 ※座れず
株主優待4,500円+5,770円=10,270円です。1,270円お得でした。
最後に
ようやく叶った国宝松江城マラソンへの参加と島根観光、本当に楽しい経験になりました。マラソンでは沢山の方々の応援と、楽しいエイド、歴史と自然の豊かなコースの全てが素晴らしく、期待を遥かに超えた素晴らしい大会でした。参加を迷っておられる方には、強くおすすめしたいところです。
観光も、松江・出雲の空気と時間に包まれ、自分の人生で願うものは何なのかが、おそらく間違ってはいない方向で見えたようにも感じます。そしてこれまで生きてきた中で、そのうちのいくらかはその願いに沿っていたことも。幸せな人生だったと思います。ちっぽけな自分はただ生かされているだけですが、少なくとも何を望んでいないのかは、割と自信を持って判断できる気がします。
松江の皆様、島根県唯一のフルマラソンである国宝松江城マラソンを作り上げていただきありがとうございました!最高に楽しかったので、島根にはまた遊びに行きたいと思います!
ここまでご覧いただき本当にありがとうございます。