ランナーたる者、この大会は一度は出ておくべきだと思います。「榛名湖マラソンはね…」と大いに語れること間違いなしです。今もその一心で筆を走らせています。
コースは信じられないくらいきつく(累積標高583m!あと、コース自体が海抜1100mくらいの場所に……。)、田沢湖を超えると思います。掛川新茶、柏崎潮風、いぶすき、奈良、どれもハードでしたがおそらく榛名湖が最強です。フル62本目の経験も何のその、前半から息も絶え絶えになり、こんなにきつい大会があるのかと嘆きたくなるくらいでした。他の大会とは一線を画するどころか別の種目ではないか、これまで走ってきたフルマラソンは何だったのかと思うこと間違いなしの難コース、出るだけで勲章とネタになります。
破格のおもてなしも評判通りで、周回によってメニューも変わるエイドではコロネ、梨、ヤクルト、カレー等をいただきました。参加費は今時たったの4000円なのに参加賞は1000円の金券、飛び賞ではなんと梨10個もいただき、バスの送迎も無料。ゆうすげの割引券もあり。どれだけランナーに親切なのかと恐縮しきりです。
とにかくすごいので是非出ましょう。そしてランナー同士で心行くまで語りあいましょう。
ちなみに、2018年に死にかけた田沢湖マラソンの記事はこちらになります。景色も応援も好きなのですが、暑さと坂が売りの大会となっており、やはり攻略は難しいです。
関西屈指のタフなコースとして多くのランナーがその名を挙げるであろう奈良マラソンの記事はこちらになります。
前日(高崎へと移動)
神戸→羽田はスカイマーク(往復14,180円)、羽田→高崎はバス(片道3,700円)です。バスは電車(2,500円程)より高いですが、確実に座れて乗り換えのストレスもないため、十分ありな選択肢だと思います。
予定より少し早く高崎に着いたので、宿にチェックイン後即焼きまんじゅうのオリタさんに行ってみましたが、既に完売で閉店していました。更にネットの情報では夜も営業しているはずの一二三食堂さんも今は昼しか開けていないようで、ソースカツ丼を食べることは叶いませんでした。
宿泊先はセントラルホテル高崎さん。駅から近く、二泊でたったの10,200円とリーズナブル。スタッフさんも親切で朝食も付いているという完璧な設定で大満足です。
折角人生で初めて群馬に来たわけですから、カーボローディングの名の下にパスタを食べます。高崎は小麦の生産が盛んなことからパスタを売りにしているようで、駅ビルのはらっぱさんでカルボナーラを美味しくいただきました。普段全くパスタを食べませんので、より一層おいしく感じられました。
更に群馬といえば蒟蒻です。全国の蒟蒻の約9割を生産しているとのこと。蒟蒻アイスはキワモノだったらだったでネタになるからいいかなと購入しましたが、普通においしいアイスでした。蒟蒻芋を使っている分ヘルシーということかと思います。
くまざわ書店さんでは『富岡日誌』等の書籍を購入しました。やはり富岡製糸場には行かねばという気持ちを強めました。
前日は十分に眠れなかったため、早目に就寝します。
レース
22:30就寝5:45起床、よく眠れました。シャワーで目を覚まし髭も剃ります。世界陸上競歩を見つつ着替えてテーピングも済ませておきます。部屋で炭酸水100、チーズ二枚と牛乳200程を摂取した後、一階の朝食会場へ。朝食は程よく量もあり味もよかったです。当日のカーボローディングは間に合わないので糖質はさほど必要ないという説が本当なのか確認するべく、ご飯は少な目にしてみました。
実際走ってみて糖質切れもなかったので、朝食の量的にはこの程度でいいのかもしれません。ただ、10時頃までは魚の味が気になったので、もう少し早く食べ終えたいところではあります。
6:50頃には高崎駅に到着です。バスは次々来てくれて素晴らしいの一言です。バスの移動は60分程なので途中30分は眠りました。バスを降りて会場に着くとゲートと榛名富士が見えて、おお、これが…となります。
メイン会場の横の常設のトイレは、男性小なら回転が速くて待ちもほぼなしでした。参加賞を受取り、ゼッケンを着けます。評判のお買い物券1,000円に蒟蒻ゼリーというご当地感がたまらないですね。あと、高度のせいか新品の日焼け止めが軽く弾けました。
シューズはエンペラー3です。函館に続く2本目となります。上はアンダーアーマー半袖で、タイツはいらないかと思いましたが衝撃も強かろうとアシックスのインナーマッスルを着用します。つまり朝倉トレイルと同じピクニックスタイルです。経口補水液は600に二袋の濃度にしておきました。ジェルフラスコ一つにアミノバイタル青と共に入れておきます。塩熱サプリは3つ。暑さ対策はキャップ白のみです。
ゼッケンを着けて荷物を預けてからスタートまで300m程移動します。その前に試飲した桃ジュースが激うまだったので後で買おうと思っていましたが、レース後は完売でした……。
整列して軽く肩を回して待ちます。日差しが少し気にはなりましたが、風はそこそこ涼しかったです。暑さだけなら今年の黒部名水マラソンと白山白川郷ウルトラマラソンの方が遥かに危険でした。
2019年猛暑に襲われた大会の記事もありますので、よろしければご覧ください。
0周目
予定通り午前9時に号砲です。スタート直後は緩い下りなので皆快調に走ります。そのまま坂を上るのかと思いきやもう一度スタートの方へ戻って来るので、ここで一応写真を撮っておきます。0周目が存在することにまず少しだけ怯みます。この後何度も応援していただくこととなる応援おじさん(今年はチンドン屋コス)は、大会レポによると毎年来られているようです。ランナーにとっては有難すぎる存在ですね。
まだまだ序の口で大きな上りもありませんのでピッチも高くキロ4分30秒台で軽く走ります。脚に負担をかけない、いつものビルドアップのイメージでした。
1周目
いよいよ一周目に入ると向こうの方に何だか長い坂が見えてきます。と言いますか壁の向こうから車が落ちてくるような光景が……。それでもまだ元気なので応援の声に笑顔で応えつつ上り始めます。下りで休めば回復するだろうくらいの気持ちで大きく落とすことはなく(一番落ちてキロ5分半くらい)走りましたが、予想していたより長い時間上り続けたため息も結構上がり、こ、これはやばいと気付きます。入りの5kmは23'30"でした。
息が整わないうちに左に大きく折れて急な下りに切り替わります。周囲も自分もペースを掴めずドタドタと降りていきます。まだあと4回も高低差78mを上るのかよと早くも追い詰められた気持ちになりつつも上半身は免震を意識して下ります。下った後も給水前に地味に急な上りがあり、また少し疲れをためます。
元来スロースターターの自分にとって、身も心も準備ができていないうちにいきなり長くて急な坂を上ることがいかに難しいか身を以て思い知ると共に、フル62本目にして初めての展開に戸惑いながら走ります。周囲もゼーゼー言いながら、これは持たないだろうと思しきフォームで走る人多数でした(ただ、ランナーのレベルは総じて高く、彼等の中には40km過ぎまで捕らえられなかった方もいました)。
給水の後は結構長い下りで、この辺りは木々も多くて涼しかったです。視界が開けてくるとゆうすげエイドで、ここでは一周目からコーラをいただきました。その後は左手に榛名富士を望みながら走るコースですが、“ま、まずい。一周目で写真を撮らないともう撮れないぞ”と頭ではわかっているもののポケットのスマホを取り出す余裕がないままにただ焦りつつ過ぎてしまいました。
中高生が待っていてくれる給水所前も少し上りで全くペースが安定しません。“これは前半で歩いてしまうのでは……。”と悲観的になりながらも何とか写真を撮ります。一周目とは思えない疲労度です。少し行くとコスプレと被り物のらんなさんが応援に立っていて下さり、この後の周回コースの心の支えになりました。
2周目
このままではやばいと思うばかりでこれといった打開策もないままに二周目に突入です。エイドが使い易いように左右で速い人と遅い人用に分けられていて感心します。一応5kmで23'00"だったのでまだ頑張っている方でした。
そうこうしているうちに襲い来る急坂。二周目の上りは腕を思い切り振って身体を浮かせるスタイルを試してみることにします。ウルトラでも有効だったテクニックです。
実際にやってみると周囲よりかなり速くて抜くこともできましたし、落ちてキロ5分45秒でしたが、何と言っても距離が長いため、消耗も思ったより激しく、フルマラソンとは思えない心拍と呼吸になってしまいました。恋愛でもここまで心拍数が上がることはないでしょう。フルでゼーゼーいうことはまずないのですが、このままでは残り3周は持たないと確信しました。既に川内優輝選手のような苦悶の表情に。
下りに切り替わっても呼吸を整えるまでに時間がかかり、ただただランナー人生最大のピンチだと思いながら走ります。14kmでネット1時間5分40秒くらいでしたが、“これは3時間20分もきつい、カレーも無理かな”等と考えていました。給水、エイドで水分は摂りますが、なかなか回復しないまま2周目終了です。
3周目
あまりにダメージを受けてしまったため、このまま走っても仕方ないと思って左のエイド(遅い人用)を見るとおいしそうなコロネが。よしここは食べるぞと意を決して休憩します。甘いクリームが口の中に広がり、嬉しさも得られます。梨もいただき再出発です。気付くのが遅れて逃したため、次の周回ではヤクルトを取るぞと心に決めて坂へと緩い上りを進みます。
ここで2周目までと同じ走りでは下りに切り替わった後でもしんどくてよろしくないので、長い上りは完全にジョグに切り替え、歩幅は削りに削ってピッチだけで進むことにしてみました。腕は身体を浮かせることよりリズムを刻むために使います。これが功を奏して2周目までのようなゼーゼー状態になることもなく乗り切り、完走の目途が立ちました(一番落ちてキロ6分23秒でした)。
中間点でネット1時間40分くらいだったようですが、とても気にしている余力はありません。23kmのゆうすげエイドではトップに周回遅れをくらい、ただただ畏敬の念でその背中を見つめるばかりです。あんな世界に憧れつつも、自分にできることは淡々と進むことだけだと普段のフォームを心がけます。
4周目
26kmくらいで4周目に突入する時に残りキロ5でも3時間半は切れると分かったので、そこだけは死守しようと思いました。エイドでは左に入り水分を摂りヤクルトもゲットします。豚汁とおにぎりは次の坂が不安だったのでパスしましたし、写真は撮れませんでしたが。さっきまで並走している人に置いていかれますが、どうせ20秒くらいの差ですし、追いつく時は追いつくと割り切ります。
そしてこの辺りでようやくメロディーラインの仕組みに気付きます。そうか、『静かな湖畔』が鳴っているのは路面に仕掛けがあるからなのだと。それまでは、えらく長閑な曲をかけて走っているなあ、とすら思っていました。それだけ頭に酸素が届いていなかったのかもしれません。
4本目の上りももう小走り一本鎗です。それでもそうそう抜かれるわけではないのでいいやと思っていました。後で数字を見ましたが、ピッチは180台後半ですし、落ちてキロ6分18秒なので十分でしょう。周回差をつけられたランナーが一人いたので後ろからじっくり観察しましたが、やはり歩幅は相当削っているようでした。
下りに入り、給水を経て30km過ぎのゆうすげエイドへやって来ました。途中何度も今日はカレーは食べられないかと諦めかけていましたが、目の前にカレーがあったので食べるしかないと決断しました。少し多いので半分くらいのものがないか聞いてみましたが、今から用意するというようなことで、これ以上ご負担をおかけするのはNGだと判断し、一皿おいしく完食しました。お肉も入っていてよかったです。ルーは何だったか、お聞きするのを失念しました。
これでミッションを果たし、後は坂も一度だしと気楽になりました。30kmでカレーというのは金沢マラソンを視野に入れても試しておきたいところですし、坂が残り一本ということも心理的に大きいです。カレーを食べるならここだと思います。
ちなみに我が最愛の金沢マラソンにて金沢カレーを食べた記録はこちらになります。2019年も食べまくるつもりです。
追記:榛名湖マラソンの経験を活かし、金沢マラソン2019も食べまっしステーション完全攻略でした。2022もです。
5周目
5周目に入った給水は、最早水分を摂りながらゴミ箱がなくなるまでしばらく歩くスタイルに。これはウルトラではよくやるやつです。
3周目以降はミラクルリカバリーを見せており精神的にも余裕があったので、5周目の上りもリズムと歩幅に注意して疲れないように上ります。最も落ちてキロ6分36だったようですが、もうこれ以上周回遅れをくらうこともないという安心感もあって最後はどれくらい上げようかと考えていました。3時間25分はギリギリ届くかなくらいの感覚です。
給水前はまたキロ6分16まで落ちても気にせず、水を摂って再度下ります。ゆうすげでは止まっているランナーを二人かわしてコーラをゲットしたものの、三人目とクラッシュしかけて避けた際にコーラを落としてしまいました。身体にかかっていたら申し訳ないです。
榛名富士を左手に望みながら自然なリズムで脚の力を抜いて走ります。感覚通りキロ4分半くらいは出ていたようです(走っている間は細かな数字は見ないのでわかりませんでしたが)。最後の給水であと2kmなので、ここからはレースペースのイメージで進みました。序盤から飛ばしていたおじさんを漸く抜き、あの走りでこんなに持つとは…と内心驚いたりしつつ。
平地で呼吸が乱れることはないので、抜く際は特に余裕を見せつけて静かに前のランナーを拾っていきます。ラスト1kmで五度目となるらんなさんの応援を受け、もう一段回上げます。視界の先、左の方にはゲートが見えています。数を数えて200mずつくらいで気持ちを切り替え、左折して最後の直線でもう少し上げます。
フィニッシュは狭くなっていてこのままいけると思っていたのですが、ラスト30mくらいで後ろから仕掛けられ、気付くのが遅かったことから反応が遅れて1秒差で差されました。記録証を受け取ると裏に「梨」と書いてあり、一つか二つかなと思っていたところ一箱10個入りの梨をいただいてしまいます。何と豪気な……。
抜かれた時はこの野郎と思いましたが、彼が抜いてくれたお陰で飛び賞の梨がゲットできたわけで、人間万事塞翁が馬であるなあと実感しました。3時間25分も切れたのでタイム的にもまずまずです。自分の前に100人以上フィニッシュしている事実に、参加者のレベルの高さを思い知ります。
アフター
当日
終了後はドリンクを受け取り、プロテインとプロテインバー2本で回復の儀を行います。ヒレカツ串、梅ドリンクも購入しましたが、どちらもとてもおいしくて、走ってよかったなあという喜びに包まれました。唐揚げも売っていましたし、たんぱく質補給はスムーズに行えます。ふるまいの豚汁には勿論蒟蒻です。
日差しは暑かったので日陰で休んだり、メイン会場傍を少しうろうろしたり、ゲストの諏訪通久先生のお話を聞いたりしました。その後、折角ここまで来たのだからとバスに乗り、ゆうすげに向かいます。当然ランナーで混んでいましたが、ここは譲り合いの精神で回転も速く、無事に汗を流して露天風呂に浸かることもできました。とにもかくにも“榛名湖で温泉に入った”という事実はいい思い出になります(タオルを持参しなかったため、また家にタオルが増えてしまいましたが……。)。
ゆうすげエイドでは5回もお世話になりましたので、丁度撤収の頃でしたが、スタッフさんにお礼をお伝えできてよかったです。それにしてもこの坂を下ってきてあっちに抜けて行ったのか、5回も、というちょっと前までの出来事が信じられない感じもしました。
元気だったので帰りのバスでは寝ることもなく読書に勤しみます。主に『富岡日記』を読み、翌日に備えます。疲労抜きジョグを60分行った後、夕食はスポンサーのヤクルト製品や、参加賞の蒟蒻ゼリー、会場で買ったうれっ娘トマト100、いただいた里見梨を堪能します。ありがたやありがたや。
翌日(富岡製糸場見学)
朝は普段通りに60分の疲労抜きジョグです。朝は空気も涼しく、清々しい気持ちになりますし、やはり初めての土地を走るワクワク感はたまらないです。
宿に戻ってシャワーを浴び、今日も今日とて朝食です。
フロントでお礼の気持ちとして梨をお渡ししたところ、気持ちよく受け取っていただきました。高崎駅でロッカーに荷物を預け、上信電鉄で富岡製糸場へ向かいます。富岡製糸場見学往復割引乗車券が2,140円で、少しお得でした。
9時頃に上州富岡駅に到着後、ノスタルジックな情緒も漂う町並みを抜けて10数分程歩くと、世界遺産富岡製糸場が見えてきます。
丁度9:30から解説員さんの説明を聞けるとのことですので、これもいい経験になると参加することにしました。
解説員さんの小気味の良い語り口、大きな写真を使っての解説等は大変分かり易く、東置繭所の木造煉瓦造、漆喰の利用、フランス積み、繰糸場の梁のかけ方や窓の多さ、ブリュナの若さ、等々記憶にも残り易くてとてもよかったです。東置繭所の二階も公開されていましたので、中に入ることができました。ここから日本の近代化が始まったのかという感慨に打たれると共に、ここに使命感を抱いてやって来た女工さんのプロ意識に思いを馳せる時間になりました。(『富岡日記』を事前に読んでいましたので。)
折角ですので応援の気持ちも込めてブックカバー等を購入します。このデザインで絹75%ですから、是非ともここで買っておきたい逸品です。
帰り道では群馬名物焼きまんじゅうも食べられて、やりたいことは大体できたなと思いつつ、11:33に上州富岡を後にし、12:23高崎発の列車に乗って羽田経由で帰って来ました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。榛名湖マラソンが色々な意味でいかにすごいのか、その魅力が少しでも伝わったでしょうか。これは実際に出てみて初めて分かることなのですが、あらゆることが衝撃的で人生観も変わりかねないくらいの経験なんです。マラソンというより、一つの大きな出来事として受け止めるような大会で、知っている人にも知らない人にも語りたいという気持ちがどんどん湧いてきます。でもどうせなら、経験した者同士で語れば、際限なく盛り上がると思いますよ。
高崎、榛名地区の皆様、本当に貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました!大会を支えて下さった皆様に感謝です!